松樹山、西善寺。大阪府大阪市福島区、真宗興正派のお寺です。

〒553-0003 大阪市福島区福島3-4-4
TEL 06-6451-7966 / FAX 06-6458-9959

今月の法話

今年の法話(2022年)

[今年の法語]

念仏はまことなき人生のまことを見せしむる光

The nenbutsu is the light which shows us the truth of our untrue lives.

正信 含英

[法話]

今も奉公(ほうこう=他人の家に雇われて、その家事・家業に従事すること)という勤め方があるのを、初めて知りました。

  先日テレビのBS放送で、大阪船場のドキュメントがあり、船場にあるお茶道具屋さんに勤める青年が、映されていました。給料はなし。小遣い程度の報酬(ほうしゅう)で、店の仕事は何でもこなします。草引きや庭掃除、トイレ掃除に接待、もろもろの仕事すべてをこなすのです。

 むろん道具のことも学びます。展示会場で、道具のどの面を正面にするか、店員たちと議論している場面もありました。

 

  一昔前は将棋の世界でも、弟子が住み込みで働いていました。しかし、直接将棋を教えてもらうことはありません。買い物から何から、用事は何でもこなします。棋力(きりょく=囲碁や将棋の腕前)は自分で磨(みが)くのです。頭角(とうかく)をあらわして(=才能・技量などが、周囲の人よりも一段とすぐれて)、プロへ進む道が見えてくればよいのですが、そうでない場合、黙って消えていくほかありません。

 宮大工さんなどの世界も、10代のころはおそらく無給で技を習うのだと思います。法隆寺の宮大工として知られる西岡常一さんの本で読んだことがあります。お師匠さんを手伝いながら、その技を「盗む」のだそうです。かんなの研(と)ぎ方や調整など、口で教えてもらってもわかりません。お師匠さんの技を見て、体で覚えます。家を建てる時、材料の木材は、どこにどれを使ってもいいのではないそうです。1本1本、育った条件が違います。日当たり、方角、それらの癖(くせ)を見抜き、一番ふさわしい場所を探すといいます。これは言葉を超えた世界です。そして最も厳しい教育の姿でもあります。

 

 宗教の体験や経験は、読書や法話を聞いている時とは限りません。木材が1本1本異なるように、私たちは、誰に代わってもらうこともできない人生を歩んでいます。大工さんが言葉では伝えられない師匠の技を「盗む」ように、自分がお念仏の味を「盗む(味わう)」ほかないでしょう。

 

  船場に勤める青年の実家も、お茶の道具屋さんだそうです。目利(めき)き(=器物・刀剣・書画などの真偽・良否について鑑定すること。また、その能力があることや、その能力を備えた人)を育てるためだけでなく、商人の姿勢を学ばせるため、父親が奉公を勧めたといいます。報酬や給料目当てなら、そのような勤め方はできないでしょう。

 画面に映る青年は、とてもいい顔をしていました。

 

山本 攝叡(やまもと せつえい)

浄土真宗本願寺派布教使、行信教校講師、大阪市定専坊住職

 

本願寺出版社(本願寺派)発行『心に響くことば』より転載

◎ホームページ用に体裁を変更しております。
◎本文の著作権は作者本人に属しております。

 

◎あけましておめでとうございます。旧年中は大変お世話になりありがとうございました。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。今年の法語カレンダーのテーマは昨年に続き「宗祖親鸞聖人に遇う」です。親鸞聖人の教えにふれた先達のお言葉を通して、あらためて宗祖に出遇っていただきたいという願いから法語が選定されています。挿絵には、俳優としても活躍される榎木孝明氏の水彩画が掲載されています。明年2023(令和5)年には、親鸞聖人のご誕生から850年という記念すべき節目を迎えます。多くの人にとって、お念仏申す日々を歩んでいく機縁となることを願っています。
 昨年、一昨年とコロナに振り回されています。変異株の発生(オミクロン株)もあってなかなか収束に至りません。感染対策をおろそかにせず一日一日を大切に過ごしたいと思います。

合掌

hougo2021