松樹山、西善寺。大阪府大阪市福島区、真宗興正派のお寺です。

〒553-0003 大阪市福島区福島3-4-4
TEL 06-6451-7966 / FAX 06-6458-9959

今月の法話

2020年8月の法話

[8月の法語]

念仏もうすところに 立ち上がっていく力が あたえられる

I say the Nembutsu. I am enabled with the power to continue living.

西元 宗助(にしもと そうすけ)

[法話]

 「今朝も目が覚めましたよ。おはようございます。なんまんだぶ」

  そう言いながらお仏飯をあげ、朝のお勤めをするのが弘子の日課である。お勤めの本はもうボロボロでところどころページが欠けているが、「正信偈(しょうしんげ)」や「讃仏偈(さんぶつげ)」、「重誓偈(じゅうせいげ)」のお勤めは身体が覚えているので、弘子にとってはどうでもいいことだった。お勤めは「正信偈」。

  「きーみょーうむりょーうじゅにょらいー(帰命無量寿如来)」

  弘子は、3歳からこの家で祖父母に育てられた。24で結婚。四人の子どもを授(さず)かったが、夫は35歳で亡くなった。

  「おうじょうあんらっこー(往生安楽国) なんまんだぶ なんまんだぶ」

  お勤めが終わったら朝食。たいていはご飯とお味噌汁とお漬物。

  明後日8月13日が夫の50回忌。

 「明日は久しぶりに子どもや孫たちが帰ってきますよ。もう随分(ずいぶん)と大きゅうなったことでしょう。そいから先月長男の光明が亡くなりました。がんやったとですが、最後はよかったよかったと往生しました。あ、もうそっちで会われとるでしょうけん、もうご存じやったですね。よろしくお願いします。なんまんだぶ、なんまんだぶ」

 

 お仏壇の阿弥陀さまに向かって話をする弘子は、今年で85になる。

  「明日は久しぶりにご馳走ば(ごちそうを)作りますよ。子どもたちの大好きなお刺身とこの田舎で育てた美味しいお米と、お魚のあら炊きも。孫たちには美味しか佐賀牛も買っとこうかね。お魚の食べれん(食べられない)子もいたはず。うちで採れたお野菜もたくさんあります。なんまんだぶなんまんだぶ」

 

 4人の子はそれぞれ都会へ出て、家庭を持ちお念仏を相続して暮らしている。とうとう最後は一人暮らしになった弘子である。

  「子どもたちも滅多なことでは帰ってきませんよ。普段は連絡もなかとです。子どもは親のことは忘れ通しですね。私も自分の調子の良かときは忘れとりました。お恥ずかしい。ついつい愚痴(ぐち)も出てくるとです。なんまんだぶなんまんだぶ。でも子どもたちが帰ってくるとは、やっぱり嬉しかですね。顔ば見ただけで、ああ良か人生ば送らせてもらったと思います。苦労はいろいろあったばってん(けれど)、阿弥陀さまのご苦労ば聞かせてもらって、かわいか孫ば見たら、自分の苦労なんか吹っ飛ぶんやけん(吹っ飛ぶのだから)。あなたが早う死んだとも、手ば合わせる生活ば子どもたちに教えるためやったとですか?私が母の死から教えられたように、あたりまえのものなんかこの世の中にはなんもなか、ありがとうば大切にしんしゃい、なんまんだぶば大切にしんしゃい、そういうご縁をくださったんかもしれませんね。言葉やなくて、私たちの人生そのもので、感謝の日暮らしにお育ていただきました。ありがとうございます。なんまんだぶなんまんだぶ」

  弘子はこの歌を口ずさみながら掃除をするのが大好きだった。

 

ひとりじゃなかもん み仏と いっしょに朝食いただいて

 ひとりじゃなかもん み仏と よもやま話に花さかせ

 ひとりじゃなかもん み仏に 不平も愚痴も話します

 ひとりじゃなかもん み仏は 笑ってうなずきなさいます

(「ひとりじゃなかもん」作詞・佐藤キナ、作曲・田中美根子)

 

 家中を掃除して、お仏壇を掃除して、打敷(うちしき=仏具などの敷物)をかけて、お花を生けて、お灯明(とうみょう=神仏に供えるともしび)を用意して、きれいにお荘厳(しょうごん=仏壇をおごそかに飾ること)。そんな弘子が仏さまを見上げると、こころなしか仏さまは、笑っていらっしゃるように見えるのだ。

 

荻 隆宣(おぎりゅうせん)

 浄土真宗本願寺派布教使、仏教青年連盟指導講師、

グラフィックデザイナー、山口県長門市浄土寺住職。

 

本願寺出版社(本願寺派)発行『心に響くことば』より転載

◎ホームページ用に体裁を変更しております。
◎本文の著作権は作者本人に属しております。

 

◎いったん収束しつつあった新型コロナウイルスの感染拡大ですが、7月上旬頃から東京周辺・大阪周辺など大都市を中心に新規感染者数が増加しています。現在(7/31)は一日あたり1500人を超えるようになっています。こんな時こそマスコミ報道やネット情報によって不安や怖れをあおられることのないようにしなければなりません。今起こっていることを、希望的観測や憶測を抜きにしてしっかりと把握し、感染予防の基本(「相手と身体的距離を確保すること」「こまめな手洗い」「マスク着用・咳エチケット」「3つの密を避ける」等々)を常に心がけることが必要であり、それが結局は安心につながっていくように思います。お盆の月でもあります。何卒ご自愛くださいますようお念じ申し上げます。

合掌