松樹山、西善寺。大阪府大阪市福島区、真宗興正派のお寺です。

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今月の法話

2020年7月の法話

[7月の法語]

人間は死を抱いて 生まれ 死をかかえて 成長する

We human beings are born with death, and grow up dying in ourselves.

信國  淳(のぶくに あつし)

[法話]

 「人間は死を抱いて生まれ、死をかかえて成長する」(『信國淳選集』第六巻「第一部浄土」柏樹社)しかし、ともすると私たちはこの事実を見ようとしない。信國淳(のぶくにあつし)先生はこの言葉について、「仏教では人間のことを「生死(しょうじ)するもの」と言っているが(中略)私どもの生きることそのこと自体が、(中略)一つの解決を要する課題として、私どもに与えられている」と表現している(同書より)。

 

 人間は、生を求める心で死を恐れ、若さを誇(ほこ)る心で老いを嫌い、罪なき清らかな自分を求める心で穢(けが)れた自分を憎(にく)んで生きている。その人間の不安、苦悩はどこで超えられるのか。

 

  信國先生は「真実の救い」は、「私どもが邪魔ものにする自分の存在の不安と、不安をなくそうとして迷うその迷いとをこそ当の縁として、私どもに私どもの外から来る」「音連(おとづ)れ」、「私自身に呼びかける言葉」である、と教えてくださっている(同書より)。

 

  私が信國先生からの「音連れ」「呼びかける言葉」に出遇(であ)ったのは、今から五十年近く前のことである。汚れた醜(みにく)い自分をもてあまし、もう一度生きることを学びたいと、大谷専修学院に入学した。そこに七十歳間近の信國先生がおられた。毎週一度の「歎異抄(たんにしょう)講義」は机を叩(たた)くように獅子吼(ししく=仏の説法。獅子がほえて百獣を恐れさせるように、悪魔・外道 (げどう) を恐れ従わせるところからいう)された。

 

  学院生活が終わろうとするレポート面接の場であった。学院では毎学期、自分の課題と学んだことを記し、先生方と面接する。私はその中で、「私のような自分だけのことしか考えないような者は、この場にいる資格がない」と語った。その時、「宮森君、君は自分さえ自分から締め出そうとするんだね。学院はそういう君も受け容(い)れるんだよ」と、先生はポツリと語られた。その言葉はいのちの底に響(ひび)き、私は思わず声をあげて泣き出した。と同時に、宇宙よりも広い光り輝く世界、どんな者もそのまま受け容れ、そのまま愛する世界がある。その世界こそ本当に在る世界だと、体全体で感じていた。自分も生きていいのだと、初めて生きる希望と勇気が生まれてきた。そして、「ああ、親鸞聖人(しんらんしょうにん)の念仏の教えとはこんなにも深いのか、一生かけて教えに学んでいきたい」と、新たな出発の時をいただいた。

 

  しかし、それは穢土(えど=迷いから抜けられない衆生 (しゅじょう) の住むこの世。現世。娑婆 (しゃば) )ならぬ浄土(じょうど)という新たな世界の感得ではあったが、人生を生きる新たな自己は見えないままであった。私は、「人間の誠実さ」を唯一の拠(よ)り所として、人を傷つけた自分を責め、窒息(ちっそく)しそうに生きていた。ある時、高史明(コサミョン:1932~ 小説家)先生をとおして、「自分をギリギリ責めるのではない(そこには真実はない)。煩悩具足(ぼんのうぐそく=煩悩で満ちている)の凡夫(ぼんぶ=愚かな人間)のままで(あなたがあなたのままで)生きていける一本道がある。念仏の一本道だ」という声が聞こえてきた。それはどんないのちも尊ぶ浄土から届けられた言葉であった。いのちを生きる一筋の道があると感得された。

 

  信國先生は「「念仏」こそ、私どもがそこで自我意識から開放され、真実の本来の自己に遇(あ)うことのできる「無」の一点であり」、「私どもは念仏に遇わぬかぎり、自我意識の世界に止まっているほかはない」と教えてくださっている(同書より)。

 

  私たちは、浄土の世界からの「音連れ」、呼びかけをいただく時、初めて「自我」が照らされ、「自我」に迷わされなくなる(「無」の一点)。私も、釈尊(しゃくそん)、親鸞、信國先生と伝統された真実の教えの一端にふれさせていただき、今も高校生や有縁(うえん)の方々と共に学ぶことを願って歩ませていただいている。

宮森 忠利(みやもりただとし)

1947年生まれ。小松大谷高等学校非常勤講師。 大聖寺教区專光寺衆徒。

 

東本願寺出版(大谷派)発行『今日のことば』より転載

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○非常事態宣言が解除されて一月余り経ちました。町中も学生さんの姿を見かけるようになり活気が戻って来つつあります。また政府の勧める「新しい生活様式」も少しずつ浸透しているように思われます。どれくらいの期間になるのかはわかりませんが今しばらくは感染防止を常に意識して生活する心構えが必要だと感じました。これから本格的に気温が上がる中、マスク着用も場面に応じて使い分けるなど熱中症に十分注意してお過ごしくださいますようお念じ申し上げます。