松樹山、西善寺。大阪府大阪市福島区、真宗興正派のお寺です。

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今月の法話

2020年5月の法話

[5月の法語]

 

いだかれて ありとも知らず おろかにも われ反抗す 大いなるみ手に

Though embraced, I do not realize it. Foolishly I resist the compassionate hand.

九條 武子(くじょう たけこ)

[法話]

 関東大震災の折、九條武子(くじょうたけこ:[1887~1928]歌人。京都の生まれ。西本願寺の大谷光尊の次女)は、自身も被災者でありながら、負傷者や孤児の救援活動に当たられました。

 

 九條武子は、親鸞聖人(しんらんしょうにん)の教えに基づいた教育活動や救援活動に尽力された方です。その活動の最中(さなか)には、阿弥陀如来(あみだにょらい)や親鸞聖人への信順(しんじゅん=教えを信じ順(したが)うこと)以上に、「どうして人間はこれほどまでに苦しまねばならないのでしょうか」という迷いや不審(ふしん=疑わしいこと。はっきりわからないこと)が彼女の心を覆(おお)うこともあったことでしょう。

 

  そのことを思う時、親鸞聖人の姿が思い起こされます。親鸞聖人も念仏をよりどころとしながら、時には心揺(ゆ)らぐことがありました。越後から関東(茨城県)の地へ向かう道中、天災や飢饉(ききん)に苦しむ民衆の姿を目の当たりにしました。苦しむ人びとの救済のため、佐貫(さぬき)の地で「浄土三部経(じょうどさんぶきょう)」の千部読誦(どくじゅ=声を出して経文 (きょうもん) を読むこと。読経 (どきょう) )を思い立ちます。しかし、読誦を始めて四、五日経った時、自分のしていることに疑問をもちます。「阿弥陀如来にすべてをおまかせし、ただ念仏の教えを法然上人(ほうねんしょうにん)よりいただいたというのに、自分の思いはからいで念仏を称(とな)えていた......」。親鸞聖人は「浄土三部経」の読誦を中止し、その後関東へと向かわれました。

 

  「阿弥陀如来より大いなる慈悲(じひ)をいただいているのに、これ以上何を求めようというのか」。親鸞聖人は、阿弥陀如来を信じると誓いながらも疑義が生じた自身の心に迷いを感じました。九條武子も救援活動を続ける中で、親鸞聖人と同様の疑問や迷いを感じられたことでしょう。

 

  成長過程において「反抗期」と呼ばれる時期があります。けれど、「反抗」とは、親の目から見ての言葉です。子どもにしてみれば「反抗」ではなく「自己主張」であり、成長過程において欠かせない時期です。九條武子が「われ反抗す」と表現した自身の姿は、阿弥陀如来の眼(まなこ)には衆生(しゅじょう)の自己主張に見えたことでしょう。悩み苦しみの中にありながら「わたしはここにいます」と自己主張している衆生の声を聞き、阿弥陀如来は憐愍(れんみん=かわいそうに思うこと。あわれむこと)してくださっています。

 

  宗教の信仰・信心といえば、「私は、あなた(本尊(ほんぞん)や信仰対象)のことをこれほどまでに信じています」と、一般的にはその本気度や深化が求められます。けれど一方で、「私はあなたのことを信じています」と、自分を疑うことなく言えてしまうことの恐さもあります。

 

  真宗の信仰・信心は、大いなるみ手(御手)に反抗する自覚をとおして、阿弥陀如来と出遇(であ)えるということがあります。「反抗」の自覚は、「おろか」な私の自覚です。そして実は、大いなるみ手にいだかれてあることの自覚でもあるのです。

 

  東京の築地本願寺境内(けいだい)の「九條武子夫人歌碑」には、彼女の歌が彫(ほ)られています。

 

おおいなる もののちからに ひかれゆく  わがあしあとの おぼつかなしや

 

 「自身で振り返る人生の足跡はおぼつかないものだけれど、他力(たりき)に導かれた生涯でした」。反抗をとおしてこそ紡(つむ)がれた言葉です。親鸞聖人の「恩徳讃(おんどくさん)」に感じられる懺悔(さんげ=自分の過去の罪悪を仏、菩薩、師の御前にて告白し、悔い改めること)と讃嘆(さんだん=仏や菩薩などの徳をほめたたえること)の響(ひび)きがあります。

白山 勝久(しらやまかつひさ)

1971年生まれ。東京教区西蓮寺候補衆徒。

 

東本願寺出版(大谷派)発行『今日のことば』より転載

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