松樹山、西善寺。大阪府大阪市福島区、真宗興正派のお寺です。

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今月の法話

2020年3月の法話

[3月の法語]

本当のものが わからないと 本当でないものを 本当にする

When you don't understand the real thing, you take the unreal the real.

安田 理深(やすだりじん)

[法話]

 この言葉の後は、安田理深(やすだりじん:1900~1982 仏教学者、真宗大谷派)師の『講述「化身土(けしんど)巻」』(東海聞法学習会)の中では次のように続いています。

 

仏智(ぶっち=仏の円満な智慧)がわからないと、それならやめておこうというわけにいかない。仏智がわからんと、今度は理性を仏智にする。こういうことが出てくるのでないか。

 

 この文章から推測すると、「本当のもの」とは仏智であり、「本当でないもの」とは理性ということになります。理性という言葉の厳密な意味は私にとって難しいですが、ここで安田師が言われている理性とは、「こうだとすると、こうに違いない」と、自分の経験を基(もと)にして結論を推測することだと思います。それはとても大事な人間の能力ではあるのですが、問題は、単なる推測であるにもかかわらず、それを「本当のもの」、あるいは「本当のこと」としてしまって、その結論を「本当である」と捉(とら)われてしまうところにあるのです。

 

  私たちの日暮らしの中でも、「自分の経験してきたことこそ間違いないことだ。それは自分だけでなくどんな人にも通用することだ」と勝手に物事を決めつけて、それを自分でそう思い込むだけでなく、さらには人にも押し付けてしまうことがあるのではないでしょうか。その結論を「思い込みに過ぎない」と容易に気づくことができたとしたら、人間関係上において起こってくるさまざまなトラブルはかなり少なくなるような気がします。それほど、一度決めてしまった結論が「私の思い込みに過ぎなかった」と気づくことは、私たちにとっては極めて難しいことなのかもしれません。

 

 先程の安田師の言葉は、さらに次のように続きます。

 

仏智がわからないと、仏智はこういうものだと決めたら、これは仏智にならないのでないか。仏智でなしに、仏智の教理(きょうり=宗教で真理とする理論)でしょう。

 

 このことは仏教だけに限らないと思います。私たちが何を学ぶにしても、それを学び続け、ある程度の自信がついてくる時、自信と共にそこに何か「おごり」のようなものが必ず出てくるのではないでしょうか。「わかったつもり」になっているだけで、実は本当はよくわかっていない。しかし、その〈つもり〉が邪魔をして、もう一度、自分が学んだことを問い直し、学び直すということがなくなってしまうのです。

 

 北陸地方で安田師がお話される聞法(もんぽう)会がありました。安田師のお話の後、師を囲んでの座談(ざだん)会があり、私の父はその座談会に参加していました。その父から聞いた話ですが、座談会に参加していたある聞法熱心な方に安田師はこのように言われました。「君は何でもわかった〈つもり〉で生きているんじゃないかね?」。

 

 するとその方はあわててこう言い返したそうです。「私は決して〈つもり〉で生きている〈つもり〉はない!」と。

 

 仏智とは、「あなたは何でもわかった〈つもり〉で生きているのではないか」という仏から我われへの問いかけなのではないでしょうか。

平野 喜之(ひらのよしゆき)

1964年生まれ。金沢教区淨專寺住職。

東本願寺出版(大谷派)発行『今日のことば』より転載

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◎現在(2月29日)新型コロナウイルス感染症(COVIT-19)の問題が社会や生活に大きな影響を与えています。国内感染者の増加に伴って、多数の人が集まるようなスポーツ・イベント等の中止・延期、全国の小中学校休校要請等々、また今後経済への影響も懸念されています。政府の対応にもいろいろと問題があるかと思いますが、今はそれを批判するのではなく一人一人が何をするべきかを冷静に判断するべきです。テレビのワイドショー・SNSなど真剣に情報を発信してくれるものもありますが、不安をあおり視聴するだけでストレスを感じる内容のものも少なからずあります。また長時間テレビやインターネットの画面ばかり視ていて健康を損ねては本末転倒といえましょう。それに比べて(政府の肩をもつわけではありませんが)首相官邸・厚生労働省のホームページにはかなり具体的な対策内容が分かりやすく公開されています。今月の法語「本当のものがわからないと本当でないものを本当にする」はまさに今の私たちに向けられた言葉のように感じられます。何とか乗り越えていきましょう。

合掌