松樹山、西善寺。大阪府大阪市福島区、真宗興正派のお寺です。

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今月の法話

2020年1月の法話

[1月の法語]

人も草木も虫も 同じものは一つもない おなじでなくて みな光る

While men and plants and insects all differ,

the Buddha's inner light shines forth in all.

榎本 栄一(えのもと えいいち)

[法話]

 元号が平成から令和に変わり一時が過ぎました。令和には「人びとが美しく心を寄せ合う中で、文化が生まれ育つ」、「一人ひとりの日本人が、明日への希望とともに、それぞれの花を大きく咲かせることができる」という願いがあるそうです。

 

 さて、私たちはこの願いに対してどのように生きていくのでしょうか。歴史を振り返ると、聖徳太子(しょうとくたいし)が十七条憲法の第一条に「和(やわ)らかなるをもって貴(とうと)しとし、忤(さか)うること無きを宗(むね)とせよ(=お互いの心が和らぎ、協力し合うことが尊いことでありむやみにこれにさからう(反抗)することのないようにしなさい。それが根本的な態度であるべきである。)」(真宗聖典九六三頁)と定めたように、私たちはいつの時代も「和」を求めているように思います。しかし、いつの時代も貴ばれ求められているということは、それほどに「和」が実現困難なものであるともいえます。それは私たちが思う「和」とは、「我」、つまり自分の都合が出発点となっているからに他なりません。不思議なもので、周りの人たちと足並みを揃(そろ)えている時にそれを乱す人がいると、その人は即座に攻撃・排除の対象になります。和を求める心の裏には、私の和を乱したくないという自分の都合が働いているのでしょう。だからこそ、自分の都合が前提にある和は、争いの原因にもなっていきます。そこには、自分の和こそ正しいとして、それをかえりみることがない愚(おろ)かさがあるのではないでしょうか。和を求める私たちは、その根にある我の愚かさに気づきません。和であっても争いであっても、どちらも自分の都合に縛(しば)られているのです。この私たちの都合が、奥深くにある真の「和」を見えなくしているのでしょう。では、真の「和」とはどのようなものなのでしょうか。

 

 釈尊(しゃくそん=迦牟尼世(しゃかむにせそん)の略、釈迦牟尼(お釈迦様)の尊称)は、誕生してすぐに花園の中を七歩歩かれ、右手を天に、左手を地に指差して「天上天下唯我独尊(てんじょうてんげ ゆいがどくそん)」と宣言されました。これは、六道(ろくどう)(※)という我の分別(ふんべつ)を超えた先に開かれる「和」の世界を示したものといえるでしょう。私たちはどこまでいっても自分の都合から逃れることはできません。だからこそ、我を根拠にするのでなく、宗教的根拠に立つものでなくてはならないのです。唯我独尊とは、そのような自分の都合が破られた先にある、人間としての尊厳と自分を生きるいのちの尊さの発見といえるでしょう。それは、自分が一番と誇(ほこ)ることではなく、自分も他人も草木も虫も等しく通じるいのちの尊さに呼び覚まされた、頭の上げようのない自己発見の驚きと喜びを表現しています。

 

一一のはなのなかよりは

三十六百千億の(※※

光明(こうみょう)てらしてほがらかに

 いたらぬところはさらになし

(一輪一輪の蓮の華の中からは、三十六百千億(=無数)の光明が放たれて、朗(ほが)らかに、どこまでもとどかないところはさらさら無いのであります。)

(「浄土和讃」真宗聖典四八二頁)

 

 青色は青く白色は白く、大きいものは大きく小さいものは小さく、それぞれの華が光り輝くように咲き誇りお互いに照らし合う花園の世界、それはまさにいのちがすべて友達だという世界ではないでしょうか。そのような自立と連帯が確立された世界こそ、我を挟(はさ)む余地が全くないほど広大な真の「和」といえるのでしょう。

 香月 拓(かつき たく)

1980年生まれ。仁愛女子短期大学准教授。 福井教区永臨寺衆徒。

 

東本願寺出版(大谷派)発行『今日のことば』より転載

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(※)「六道」:人間が善悪の業(ごう=行為)によっておもむき住む六つの迷界。すなわち、地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天。この六道の間を生まれかわり死にかわりして、迷いの生をつづけることを「六道輪廻(ろくどうりんね)」という。

(※※)「三十六百千億の」:(極楽)浄土の蓮の華には百千億の花びらがあり、その花びらに青・白・玄(くろ)・黄・朱・紫の六つの光があって相互に照らしあうから六×六=三十六の百千億の光となる。

houwa202001