松樹山、西善寺。大阪府大阪市福島区、真宗興正派のお寺です。

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今月の法話

2016年3月の法話

[3月の法語]

信心(しんじん)ひとたびおこりなば

煩悩(なやみ)を断(た)たで涅槃(すくい)あり

Once shinjin arises, nirvana is to be realized

without having to get rid of our blind passions.

[法話]

年間三万人近くが自ら命を絶つ現代日本。その中で、人口に対する自死(自殺)率がきわだって低い町があります。

 

徳島県の(旧)海部町。自死には、経済や健康問題の他、気候や地形なども影響していると言われます。しかし外的条件が全く変わらない両隣の町は自死率が全国平均より高いのに、海部町は全国で最も低い自死率を示しているのです。

 

海部町と隣町とを比べてみます。 人のため、社会のために役に立ちたいという気持ちの強い人が多いのはどちらでしょう。具体的には、赤い羽根募金の募金額が高いのはどちらでしょう。

 

答えは、海部町は低く、隣町は高いのです。意外ではないでしょうか。人や社会のために募金するという気持ちは、悩んでいる人への目配りや手助けに通じ、自死の防止につながるようにも思います。しかし赤い羽根に関して言えば、社会貢献の意識からというより、しがらみで仕方なくというケースも少なくないような気がします。横を見ながら、多からず少なからずと募金していることもあるのではないでしょうか。海部町の人は決してケチなわけではありません。目的の明確な募金や寄付には、誰と比べることなく積極的に応じています。

 

しがらみは、時に、人間関係を固定化し、人を窒息させます。

 

しがらみから自由なのは人間関係に淡泊なのだと思われがちですが、海部町の人々は、他人への声かけは多くあります。その上で、それぞれの人を許容する風土があるのです。いろいろな人がいて当り前だと。

 

また質問。うつ病の患者が多いのは海部町と隣町のどちらでしょう。

 

答は、海部町です。これは、うつ病の人の数ではなく、うつ病で病院にかかっている患者の数というところがポイントです。つまり、海部町の人はうつ病で病院にかかることに抵抗がないということなのです。病を知られたくない、自分の弱さを認めたくないという心根が、苦しいのに医者にいかず、自らを滅ぼすというケースは少なくありません。海部町にはこんな言葉が伝わっています。「病は市に出せ」。病気は人前に公開せよ、それが病を癒(いや)す近道だというのです。

 

さて、最後の質問です。自分は幸せと感じている人が多いか少ないか。

 

海部町では、「自分が幸せだと感じている人は少ない」という結果がでました。また、「自分が不幸せだと感じている」人も少なく、「幸せでも不幸せでもない」人の割合が一番多かったのでした。往々にして幸せは、他との比較によって決められます。その比較癖から自由になったところに、自分への承認と肯定感が生まれるということでしょう。

 

信心の響きは、そのままでいいよ、とのお諭(さと)しです。まよいが消えることがすくいなのではなく、まよいをまよいと認められることがすくいの世界なのです。

 

※参考『生き心地の良い町』岡檀(講談社)

松本智量(まつもとちりょう)

 本願寺派布教使、東京都八王子市延立寺住職

 

本願寺出版社(本願寺派)発行『心に響くことば』より転載

◎ホームページ用に体裁を変更しております。
◎本文の著作権は作者本人に属しております。

 

(今月の法語・大意)

ひとたび、(阿弥陀如来の本願を聞いて)信心の心をおこすならば、煩悩をもっていても(=煩悩を断絶することしなくても)仏の悟り(=涅槃)を開くことができるのです。

 

◎ 今月はお彼岸です。今年はうるう年なので3月20日が春分の日(彼岸の中日)となり、この日をはさんだ7日間がお彼岸です。ではお彼岸とはどんな日でしょうか。「彼岸」とは読んで字の如く、「彼の岸」、つまり「向こう側の岸」のことです。「向こう側の岸」とは「(西方極楽)浄土、阿弥陀如来の仏国土」のことで、「迷いと苦しみ、煩悩のない世界」です。こちら側は「此岸(しがん)」といい、「迷いの世界」とされています。「彼岸」という言葉の原語は、昔のインドの言葉、「パーラミター」の漢訳で、意味は「到彼岸(とうひがん)」。すなわち「(此岸から)彼岸に到る」です。「迷いの世界」から「迷いのない世界(浄土)」へと渡ること。仏の国への往生を願うことです。彼岸の期間を仏教週間ということもあります。彼岸は仏法に触れるまたとない機会です。ご先祖を偲び、縁として静かに手を合わせお念仏申しましょう。 合掌